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E.Aの書きかけ小説を殴り書きなのだ。 現在「星降る夜に願いをかけて」連載中
2024 . 04
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    【前回分はこちら】



    「ん?」
     青年はたった一瞬のディスプレイが表示した<ゆがみ>を見逃さなかった。キーボードを忙しく打ち込んでいく。コンピューターから様々な数値と計算式、その結果によるグラフとグラフィックが現れては消え、消えてては次の結果を表示していく。
    「今度はなにやってんの、光助?」
     バリバリバリボリとスナック菓子をほおばりながら、少女は聞いた。少女と言うには成熟し、間もなく少女の殻をぬけだしていくそんな微妙な位置に今たっている少女。それでも青年から見れば幼い子供にしか見れなかった。
    「あのね、アキちゃん・・・」
     言っても無駄だけど「ココは飲食禁止、って何度言えばわかるの」
    「だってシノハラさんも食べてるよ」
    「・・・・」
     見れば青年の先輩は何の仕事をするわけでもなく、カップラーメンをすすっていた。
    「シノハラさん! なにやってんですか」
    「いやん、怒るの光助ちゃん? だって私、今やれることないんですもの」
     脱力・・青年は体から力が抜けていくのを感じる。いや、生気をぬかれたのかもしれ
    ない。
     高名な天文学者の助手になりはや五年。今だに自分の置かれている状況に納得しかねている。天文学者は究極のマイペースで、青年が言わないと忘れている事も度々。本当の才能のある人はドコか欠落している部分があると、どこかのドキュメンタリー番組で言っていたが、欠落していい部分と悪い部分がある。人の約束を忘れたり、自分の時間帯の気の向くままに生きたり、家事全般を青年に押しつけたりするのはやめてほしい。ま、住み込みで働いているのだからどうしようもないし、嫌いではないのだが、このごろ自分は本当に天文学者助手なのか、と疑問が湧く。
     しかもコンピュータ関連を完璧に扱えるのは青年だけなので、必然的に天体観測のコンピューターワークスは青年に任される。信頼されていると言えば聞こえはいいが、雑用全般にしか青年は思えないのだ、この状況を目の当たりにすれば。
    「書類整理は終わったんですか?」
     刺のある言葉で先輩をにらんだか効果はまるでないのも分かっている。
    「だってぇ、だってえ、乙女にこの書類の量は拷問にも等しいわよ! だいたい書類による記録なんて無駄なものが多いのよね、やっぱり信頼すべきはココよ」
     と人差し指で頭をさす。
    「そういう事は乙女になってから言ってください」
     その青年の言葉に少女はクスクス笑い、先輩はムスッ、として仕事に取り掛かる。
     だってしょうがない、事実なんだから。青年は先輩を見た。天文学者助手と言われても納得できそうにもないチャイナドレスで妙に深いスリット。そこから上手く処理されていない無駄毛がちらりはらりと、覗いている。
     化粧は濃いが、整った顔だち。香水の匂いはきついが、思わず見とれてしまうスレンダーな肢体。胸はないが、すね毛はあるその足・・・男性ホルモンがあきらかに高いと思われる体つきは隠せないでいる。
     別に青年は性に関してとやかく言うつもりはないし、自分の性に不満を抱く人がいたって変じゃない。しかしかと言って、それでその人に好意を抱くかどうかは別問題の話しで。
     (優秀な人なんだけどな)
     天文学においては、上司であるはずの天文学者とひけをとらない。その変な服装と素行さえなければ、間違いなくドコかの大学なり研究施設が金を積んででも欲しがる人材だろう。が、そういう話しはまるで聞かない。先輩自身も自分が助手の立場である事に満足しているようだ。
     前々から天文学者である先生と先輩は不思議な関係だなぁ、と思っていた。単なる学者と助手という関係じやない、何かを隠している・・・。
     そうでなくては、まもなく四十歳に手が届く年齢なのに助手で満足するはずがない。自他ともに認める才能をもっていながら。
     (それより仕事だ)
     青年はコンピュータのディスプレイに目をうつした。止まっていた計算式が動きだす。
     スターレイン・・青年が子供の頃はそんなものは降っていなかった。星は禍々しい破壊の存在ではなく、夢とロマンにあふれる暗黒の大海の道標であるはずだった。記憶を辿る。高校の時、初めてそれは報道されたと思う。
     人々はそれを映画やマンガのようにしか受け止めなかった。
     でもそれはすぐに、圧倒的な恐怖に変わった。
     星は時間とともに、数を増し、被害を増大をさせていった。天文学はそのために未知なる宇宙の謎の開拓から、星の雨から身を守る方法の開発へと方針を変えていくしかなかったのである。
     もともと夜空の星が好きだった青年。
     宇宙をロケットという武器で開拓しようとした人類。
     天体望遠鏡が宝物だった少年時代・・。
     天文学者である姉。
     星に脅えている今の人類・・・・。
    『人類の横暴に地球も神も見放したのさ』
     どこかの科学者の科学者とは思えない発言。そうだろうか? そんな非学的な根拠を断言している事態なのだろうか? 皆が疲れ切っているというこの時に、もっと絶望させるような事しか言わない学者に何の価値がある?
     真実がいつも希望とは限らない。姉の受け売りだが。
     でも、探求をやめたら事態はかわらない。青年の上司である先生の言葉。
     手を休めずに、思考はぐるぐると回る。
     たった少しでも可能性を見いだせば、その可能性が花開く可能性もある。絶望しきったこの時勢だからこそ、青年は天文学者をあえて目指したのである。
     (いつか星の雨を止めてみせる!)
     その決意は三秒後にもろくも崩された。
    「わん」
    「にゃん」
    「ききぃー」
     の三重合奏。青年は突然の一声にデスクに突っ伏した。恐る恐る少女の方を見る。
    「ほら、静かにしてよ。光助に怒られるよ、怒っても怖くないけどね。でも、今日の光助、少しイライラしてるから。珍しいよね?」
     といつのまにかいる犬・猫・猿を愛おしげに撫でる。わざわざ青年に聞こえる声で。
    「アキちゃん・・・また彼らをつれて来たの?」
    「悪い?」
    「いや、悪いとかそういうんじゃなくて、ココに連れてこないでってお願いしたじゃな
    いか、この前―」
     青年は口を閉じた。犬が青年の足元に添う様にやってきて、そこに座り込む。可笑しくなって青年は思わず笑いだす。精密なコンピュータが埋めつくしている観測所に動物連れ込んだり、飲食したりなど非常識もはなはだしいのだが、そもそも青年の上司に常識の文字は存在しない。それゆえに、ゆるぎないスター・レイン観測計算式を導きだすことに成功したのである。
     何より動物達は、かけがえのない家族だ。追い出す理由はないし、ここで暴れてはいけない事は動物達がよく知っている。何より観測所にこもっている時に、この三匹をよく連れ込んでいるのは青年自身に他ならない。
     いらいらしてる・・か。そうかもしれない。
     星の雨という言葉に、この頃敏感に反応している自分がいる。誰もが恐怖に脅えているのだが、青年はその脅威を憎んでいた。悲しいという表現の方が正確か。あれほど夢を、幻想を、勇気をくれた夜空の星達。それが今や、単なる恐怖だ。
     いつか・・・と思う。いつか人間は夜空を見上げて恐怖しない日が来ることがあるのだろうか。星と星を線でつないで夢を描く日は来るのだろうか。今ではすっかり忘れさせれたロケットで宇宙の神秘を探り出す冒険に旅立つ日は来るのだろうか。
     (「来るのだろうか?」・・・来させるんだよ、その手で)
     青年はそっと犬を撫でる。少女を見た。つまらなそうな表情をたたえ、猫をなでている。
     もうちょっと待ってなよ。これが終わったら美味しいもの作ってあげるから。そう心の中で呟き、再びキーボード入力を再開する。苦笑した。家政婦でもないのにこんな事を思うなんて、すっかりここの空気に毒されたみたいだ。僕はただの助手なのになぁ・・・。
    「光助ちゃあぁぁぁん」


    【続く】






    ひさびさ。
    このブログを放置してはいた訳ではありません。
    忙しかったのです。うん。いつもの言い訳w
    しかも、すでにwebでアップしているから、ただアップするだけというのに(笑)

    今日は家族で海に行く予定。
    前回も行ったのですが、何年かぶりにインドアな
    僕が夏らしい事しようとしてます。
    異常気象は僕のせいか?(笑)
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    前回分はこちら


    「アリン!!」
     答えはない。完全に気絶してしまっていた。
    「こんな時に!」
     だが、容赦なく星は降っている。さっきより、なおいっそう激しく。
     星の雨・・・否、星の滝が夜空を埋めつくしていた。滝は川を作り、海を作り、狂ったように躍動している。星は禍々しく光りを放ち、空から大地へと数え切れない線を引く。線は大地に存在するあらゆるものを消していく。その繰り返しで街はすでにかつての姿はなかった。かつて住んでいた人々が今、何人生きているかそれすら疑問である。
     だが不思議と、ロイの思考には家族の事は少しもでなかった。
     消息不明の家族よりも、今そばで生きているアリンを守り抜く事、それが重要だ。悲しむ事なんか後でもできる。俺は―アリンは、死にたくない!
    「アリン、起きろ! 目を覚ませ」
     ぐったりとしたアリンの体をゆする。アリンはかすかな息を唇からもらし、うっすらと瞳を開ける。
    「ん・・ロイ?」
    「大丈夫か?」
    「痛い・・なんか、体中ズキズキするよ」
    「走れるか?」
    「うん・・」
     とかすかにうなずいて
    「ロイ?」
    「何だよ。のんびりしている暇はないんだぞ。この街には安全な場所なんかないんだ」
    「どうして私をおいて逃げなかったの?」
    「馬鹿な事言ってんなよ! さっさと逃げるぞ」
     と乱暴にアリンの手を掴んで走ろうとする。アリンはロイの背中に安心の笑みをもらした。こんな時なのに、なぜかロイに対して素直になれる自分がいるのにアリンは驚いた。普段ならこんな事は一言も言わなかった。ロイが怒る事も分かってた。それでも言ったのは、安心がほしかったからだ。そしてロイは安心以上の勇気をくれた。
     (私はこの人が好き)
     こんな時にこんな事を思うのは不謹慎だろうか? でも・・生きてこの街を出れたら、本当にロイと幸せになりたいと思う。私はこの人と一緒に生きたい・・そう心の底から思う。自分の家族や友人が死んでいるのかもしれないのに、アリンは走りながらそんな事を考えていた。勇気は強さをくれる。私はロイと一緒に生きる―という確固たる意
    志をもった強さを・・。こんな極限状態だから、そんな想いがよぎるのかもしれない。三秒後には、ロイも私も死んでいるのかもしれないが、それでも生きたい。二人で生きたい。街から絶対、脱け出したい。二人である事が二人に希望をもたらしてくれた。はかない希望であり、弱すぎる強さではあるが・・・。
     が、その想いも一瞬にして、かき消えた。
    「!」
     声にならない声を二人はあげる。ロイもアリンも石化したかのように、空の一点を凝視した。
     星の雨の一線が二人の頭上をめがけて、落ちてくる。
     強烈な光に目がくらむ。風が二人を凪ぎ、石つぶてや砂粒が竜巻のように、二人を包み込む。だが、痛覚は感じなかった。痛さよりも、星の雨への恐怖が二人を占有した。
     (「死」ぬ・・・・・?)
     目をつぶる。
     死への恐怖。
     轟音などという言葉では表現しきれない破壊の歓喜。光は目蓋の裏にまで刺し込み、風は竜巻を作り、瓦礫と化した街のかつての部品達を凶器に彩る。
     そして星の雨の一粒はロイとアリンもろとも粉砕して・・・粉砕して・・・粉砕して?
     ロイは目をそっと開いた。星が消えている―。
     痛覚が再びロイの体に蘇った。全身がズキンズキンと痛い。見れば、ロイもアリンも手から足から体から頭から血を流していた。痛覚と薄れそうな意識に、ロイは現実をどう理解していいのか分からない。
    「アリン・・」
    「ロイ?」
     二人は傷だらけの手を握り合い、空を見上げた。あれほど狂暴だった星達はドコに消えたのか? 今ではすっかり、静寂が街を支配していた。静かな夜にたしかな現実として、廃墟と化した街がたたずんでいる。
     ココはドコ? 思わずそう呟きたくなる。
    「俺達は生きているぞ、アリン」
    「ロイ」
     夜空には幾つかの星が消えそうな光りで輝いているのみだ。二人はただ立ちすくみ、そして力なく座り込んだ。
     長かった夜はまもなく明ける。


    【続く】






    ・・・・風邪で死んでました。
    ようやく調子は取り戻しつつあります。
    このブログ、まだカウントもアクセス解析もいれてないので、どなたがいらっしゃってるかよく存じませんが、皆様もご自愛ください。
    【前回分はこちら】


    生存率 2.8%

     逃げれるの? アリンのか細い声。逃げれるの? 知るかよ。そう叫びたいところだが、ここでアリンを不安にさせてどうする? そんなこと言ったら、俺まで挫けちまう。
     挫けてこのまま死ぬか?
     (冗談じゃない! 死んでたまるか!!)
      アリンに答えるかわりに、ロイは強く手を握った。言葉なんか、今のこの状況でいくら紡いだって無意味だ。言葉は所詮、言葉。それでアリンの、そしてロイの不安と危機は消せはしない。
     だが、手のぬくもりは、アリンをパニックから引き戻し、ロイに勇気を湧かせた。生きてやるよ、お星様。お前らの酔狂な気まぐれからな。
     その決意すら、気休めでしかないことに、ロイは気付いていなかった。状況は何一つ変わっておらず、危機は刻一刻と迫っているのだ。ロイの言う気まぐれが、ほんの少しかたむけば、彼らは死ぬ。そんな極限状況なのだ。下手に動けば、END。下手に動かなくてもEND。後は運次第……。
     そして、その運の確率はきわめて低い。
     大量の星の雨に、生存者が今までほとんど皆無だったことが数字でニュースはすでに証明している。ロイはそれを知っている。それを知っていて、それをあえて破棄する。考えないことに努める。
     とにかく、生き延びること。焦点はそれだけで充分。
     確率の問題は生き延びてからすればいい。今、重要なのはアリンと供に一刻も早く、この町から出て行くことだ。星の雨の脅威から、できるだけ遠い場所へ。
     ロイは無言で走り出した。アリンはロイの背中を不安そうに見つめながら、後ろに続く。
    手はお互い、離そうとしなかった。そのぬくもりが、二人にとっての命綱なのだ。もし、一瞬でも、このぬくもりが離れたら、間違いなくパニックが頭を襲う。ぬくもりが、ロイとアリンを平静に保たせていた。その平静さも、ちょっとしたショックで崩れてしまいそうな、もろい見せかけでしかない。
     それでも、アリンのために諦めるわけにはいかない。
     それでも、ロイが一生懸命なのに弱音なんか吐いていられない。
     二人は口に出さず、恐怖をはためかせながら、胸の中で呟く。
     と・・また、強烈な光が空に弧を描く。と思うやいなや、星は二人のすぐ近くの建物に降り注いだ。  
     すさまじい轟音と振動、そして破壊。目の前でコンクリートの固まりが光に撃たれ、単なる瓦礫になっていく所を目の当たりにする。ビルは砂でできたように、ゆっくりと崩れた。
     光は止まらない。
     ゆっくりと、崩れ落ち、醜くはがれ落ちるコンクリートの粒子達。むきだしの鉄骨。数々の文明のアカシ・・・。すべてがあっさりと、ゆっくりと破壊しつくされていった。
     それでも光は止まらない。
    「く・・!」
     ロイは唇をかみしめた。まるで映画の主人公にでもなったような気分だ。昨日までの平和な日常なんか、影も形もない。爆風に飛ばされないように、体をふんばり、同時にアリンを支える。
     その、たった一瞬だった。
     星が二人のすぐ足元に落ちてきた。熱い風が二人を包み、ゴミのように飛ばされる。
     (痛・・!)
     かつてビルだつた瓦礫に叩きのめされ、一瞬、ロイは意識を失いそうになった。
    「アリン!?」
     恋人を探す。と、手の感触を思い出した。ぬくもりが―感覚が蘇る。アリンは、ロイの手を少しも離す事なくソバで倒れていた。
    「しっかりしろ、アリン」
     答えない。
    「アリン!!」


    続く





    追記。雑文。
    昔の文章を読むのは照れ臭いですが、
    まぁ、自己復習の意味合いもかねて。
    第一部四話まではwebで掲載していますので、一気読みされたい方はそちらを、どぞ。
    《前回分はこちら》


     消失は突然におこる。運が良ければ、生命は死ぬことはない。自然がえぐられ、環境が見るも無残に変貌する程度である。ま、その結果、生態系が崩れるような事態が生じるとしてもだ。
     今の人類に、他生物の愛護活動などを行う余力はない。
     死の恐怖から逃げ出すことだけが、今の人類の課題であった。人類の科学は、スター・レインを解明し、その現象を消滅させるほどの力はない。むしろ、その100倍のスピードで、文明建築物が、消されている。その倍の生命が死に、致命傷にもだえ苦しみ、不運を呪う。
     今日もそんな事例の一つが、無慈悲に残酷に、夜空に星を引いた。
     小説家と少女が見たあの星―。
     星は海をこえ、大陸をこえ、町という町をくぐりぬけて、小さな町に落ちる。
     イギリス、サウスイーストに位置する田舎町、フォルテッシュッ。ロンドンにわりと近く、そこそこの商品流通がそこそこにあり、そこそこに儲けて、そこそこに幸せを享受していた、その町。
     その日、あっさりと消えた。
     轟音が鳴り響く。
     目がくらむばかりの、ライトアワー。その意味は、死と破壊。人々は理解する余裕もなく、死に絶える。あるいは、死にいたらず、激痛の中、闇をさまよう。痛覚は恐怖を呼び込み、人々は混乱を自分自身の手で呼び寄せる。
     混乱は混乱を招き、招かれた混乱は、さらなる被害をもたらす。一度は科学で地球を征服できると確信していたサルの子孫達の末路。サルは所詮サルなのかもしれない。人類の科学の力など、サルが木の枝の上で木の実を頬張って得意になっている事と、何の代わりも無いのだ。圧倒的なスター・レインの脅威に、人類はなすすべもない。
     なすすべも……。
    「どうしようもないのか」
     他人事のように、ロイ・アーブィは呟いた。テレビや新聞で、毎日のように報道されているスター・レイン星の雨の脅威。人はその前では、あっさりと死に、町は廃墟と化す。まさに、その瞬間をロイは目の当たりりしていた。
    「これが、スター・レイン・・・・星の雨……」
     星が空をかけめぐる。星が空を埋め尽くす。星は光りの矢となって、地表に突き刺さる。それは壮麗で、圧倒的で、耽美で、酔ってしまうような光景だ。綺麗だ、と思う。
    ずっと見ていたいと思う。自分の町が破壊しつくされている、というのにだ。その光りに打ち抜かれてみたいとすら思う。それが危険な死の光りであるはずなのに―。
    「ロイ!」
     その一言に、ロイははっと我に返った「ロイ、死にたいの? 早く逃げようよ」
     と言ったのは、アリン・ノルフィル。ロイの婚約者だ。ロイはやっと、自分が何をしていて、今ドコにいたのか、理解した。何ボケッとしている、笑えるぞ。ロイ。お前は何をしている? ん? そのまま死ぬか? 明日はなんだ? お前は、忘れちゃいないか? 死んだら結婚式なんか、あげられないんだぞ。何より、お前はアリンを殺すきか?
    「アリン…デートがおじゃんだな」
     何言ってんだ、俺は。「逃げよう、死んでたまるか」
    「ロイ……逃げれるの?」
     不安そうな表情。ロイの頭の中に新聞の一文が、浮かんだ。


    生存率 2.8%


    《続く》
     満天の夜空に星がきらめくある日。少女は空に手をのばした。
     空を埋めつく星は、光りをたたえ、王族貴族のみに所有する事を許された宝石のようですらある。  
     でも、あの光りは《灼熱》なんだよ。と教えてくれたのは、父である小説家だ。
    「太陽の光はギラギラギンに熱いよな」
     と目を閉じて、父は言う。「太陽と同じくらい―いいや、それ以上の恒星の光りなんだよ。もしもあの星の近くまで行けるとしたら、その火炎にたちまち灰になっちゃうだろうなぁ」
     と父は呑気な顔で、ハハハと笑った。
     少女は不思議に思う。それほどの灼熱なら、どうして夜は昼間にならないの?
     小説家は可笑しそうに答えた。
    「遠いからだよ、ミドリ」
     愛しげに、自分の娘の名前を呼ぶ。「遠すぎるんだ、この地球まではね」
    「どれくらい?」
    「どれくらい、じゃすまないな。何千、何万、何億年もの時間をかけて、灼熱は闇を旅してくる。凶暴だった火炎の光りも、この地球につく頃には力も尽きて、弱々しくホタルのようにしか光れなくなっているんだ」
    「何億年……」
     少女は繰り返し、呟いた。少女には想像をはるかに越えた数字だ。そして小説家にも。
     一瞬、夜空に数本の線がよぎり、そして消えた。また、あらわれ、そして消える。また、光り、そして闇に戻る。
     少女は思わず、父の顔を見た。目は夜空に注ぎ込まれ、表情は翳り、憎々しげですらある。父はボソリと呟いた。
    「また、星が落ちたな」
     また、そのセリフ。また、その顔。また、あの星。
     少女は夜空にきらめく宝石達がたまらなく好きだが、この瞬間だけは好きになれない。あの線が夜空に引かれる時、誰かが死んで、どこかが消える。
     死ぬ事について、少女は漠然としたイメージしか持てない。死ぬのは暗い、死ぬのは怖い、死ぬのは淋しい。死ぬのは…星の光ることの無い宇宙の深遠―。
     死の悲しみなんて、実は今まで一度も理解したことがない。訃報は今は、テレビをつければ1時間に1回は聞くことのできる世の中である。目を閉じていても、世間の噂は、容赦なく誰々が死んだのよ、あら可哀相にねぇ、と口を休めない。
     でも、死んだらどうなるの? 少女は周囲の大人にそんな疑問を振りまく。
     大人達は困った顔で、定番の答えを言う。『天国』と『地獄』と―。
     だが、父は違った。慰めも、気休めも、夢も希望も抱かせない一言で、少女を納得させた。それは小説家らしからぬミもフタもない一言だ。
    「さぁね。死なないと、分からないな」
     でも、死ぬって冷たくなる事だ。体がピクリとも動かなくなり、頭は考える事もできなくなり、夢はもう見れない。瞼を開ける事はもうできず、夜空を見る事もかなわない。
     それって、なんだか怖い。
    「そうまでしなければ、見えない事が世の中にはあるんだよ」
     と父は言う。「怖ければ、下手な空想は抱かないことだ。ある意味、それは幸せだよ」
     イミシン、と少女は父の言葉の意味を考えた。怖ければ空想は抱くな、その強い口調はさも全てを知ったかのようだ。ううん、思って少女は首を振る。実は父も、死の先なんて知りはしないのだ。父どころか、世の中の有名な人の全てが知恵をしぼっても、死の後の体験は空想でしか語れない。
     死はその人を、完全に粉砕してしまうのね。少女は陰鬱に呟く。誰も知らない。で、いつかは誰かの所に、ふりかかる終止符。その終止符が今、この地球上のドコカで、降り注いでいる。
     たった今、引かれた光りの線は、はるか数千キロ離れたドコの地での、死の予告である。
     街は粉になるまで粉砕され、積み上げられた歴史は消える。全てをえぐり、緑の存在すら許さない。  
     少女は星の落ちた瞬間を、まだその目で見たことはない。だから、その情景も想像でしかないが、それを想像しただけで、体はブルブルと震えてくる。
     何の予告もなく、全てが終わる……。それって、スゴク怖い。
    「また、消えるの?」
     小説家はその質問には答えない。
    「星が消えたな……」
    「お父さん、ミドリの話し聞いてた?」
    「ああ…」
     上の空な声。「聞いてはいるよ」
     だけど、答えない。少女は不満そうに表情を膨らませて見せたが、それ以上の事は聞かなかった。少女だって、理解してはいる。そのたった一言のクエスチョンが、どれだけ簡単には答えられない問題であるのかを―。
     少女は父にならって、夜空を見上げた。いつもの空、いつもの星、いつもの暗闇の時間、いつもの雲、いつもの月、いつもの父の顔。
     夜空にはもう、閃光のカケラも、確認できない。何もなかったかのように、静かな、冷たく、心地よい夜の空気。
     小説家の表情は何もなかったかのように、少女に向かって微笑んだ。
    「さ、家の中に入ろうか?」
     少女はなんだかホッとした。星が去ったと同時に、父の顔から憎悪によく似た表情も消えた。まるで何ごともなかったかのように……。
    「うん」
    「どれ、夜食にラーメンでも作るかな。俺は腹が減ったよ」
    「絶対、味噌ラーメン!」
    「はいはい」
     小説家は苦笑し、家の中に入る。少女も慌てて、後を追い家に入った。
     何事も―何事もなかったかのように。
     少女は、玄関のドアを入る前に、クルリと空を見上げた。いつもの何もかわらない夜、でもドコかでは、何かを消している星の雨。今日は何を消しにきたの?
     あの星は、もうドコにも見えない。
     少女は、夜空に背を向けて、家の中に入った。


    【続く】
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