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E.Aの書きかけ小説を殴り書きなのだ。 現在「星降る夜に願いをかけて」連載中
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     満天の夜空に星がきらめくある日。少女は空に手をのばした。
     空を埋めつく星は、光りをたたえ、王族貴族のみに所有する事を許された宝石のようですらある。  
     でも、あの光りは《灼熱》なんだよ。と教えてくれたのは、父である小説家だ。
    「太陽の光はギラギラギンに熱いよな」
     と目を閉じて、父は言う。「太陽と同じくらい―いいや、それ以上の恒星の光りなんだよ。もしもあの星の近くまで行けるとしたら、その火炎にたちまち灰になっちゃうだろうなぁ」
     と父は呑気な顔で、ハハハと笑った。
     少女は不思議に思う。それほどの灼熱なら、どうして夜は昼間にならないの?
     小説家は可笑しそうに答えた。
    「遠いからだよ、ミドリ」
     愛しげに、自分の娘の名前を呼ぶ。「遠すぎるんだ、この地球まではね」
    「どれくらい?」
    「どれくらい、じゃすまないな。何千、何万、何億年もの時間をかけて、灼熱は闇を旅してくる。凶暴だった火炎の光りも、この地球につく頃には力も尽きて、弱々しくホタルのようにしか光れなくなっているんだ」
    「何億年……」
     少女は繰り返し、呟いた。少女には想像をはるかに越えた数字だ。そして小説家にも。
     一瞬、夜空に数本の線がよぎり、そして消えた。また、あらわれ、そして消える。また、光り、そして闇に戻る。
     少女は思わず、父の顔を見た。目は夜空に注ぎ込まれ、表情は翳り、憎々しげですらある。父はボソリと呟いた。
    「また、星が落ちたな」
     また、そのセリフ。また、その顔。また、あの星。
     少女は夜空にきらめく宝石達がたまらなく好きだが、この瞬間だけは好きになれない。あの線が夜空に引かれる時、誰かが死んで、どこかが消える。
     死ぬ事について、少女は漠然としたイメージしか持てない。死ぬのは暗い、死ぬのは怖い、死ぬのは淋しい。死ぬのは…星の光ることの無い宇宙の深遠―。
     死の悲しみなんて、実は今まで一度も理解したことがない。訃報は今は、テレビをつければ1時間に1回は聞くことのできる世の中である。目を閉じていても、世間の噂は、容赦なく誰々が死んだのよ、あら可哀相にねぇ、と口を休めない。
     でも、死んだらどうなるの? 少女は周囲の大人にそんな疑問を振りまく。
     大人達は困った顔で、定番の答えを言う。『天国』と『地獄』と―。
     だが、父は違った。慰めも、気休めも、夢も希望も抱かせない一言で、少女を納得させた。それは小説家らしからぬミもフタもない一言だ。
    「さぁね。死なないと、分からないな」
     でも、死ぬって冷たくなる事だ。体がピクリとも動かなくなり、頭は考える事もできなくなり、夢はもう見れない。瞼を開ける事はもうできず、夜空を見る事もかなわない。
     それって、なんだか怖い。
    「そうまでしなければ、見えない事が世の中にはあるんだよ」
     と父は言う。「怖ければ、下手な空想は抱かないことだ。ある意味、それは幸せだよ」
     イミシン、と少女は父の言葉の意味を考えた。怖ければ空想は抱くな、その強い口調はさも全てを知ったかのようだ。ううん、思って少女は首を振る。実は父も、死の先なんて知りはしないのだ。父どころか、世の中の有名な人の全てが知恵をしぼっても、死の後の体験は空想でしか語れない。
     死はその人を、完全に粉砕してしまうのね。少女は陰鬱に呟く。誰も知らない。で、いつかは誰かの所に、ふりかかる終止符。その終止符が今、この地球上のドコカで、降り注いでいる。
     たった今、引かれた光りの線は、はるか数千キロ離れたドコの地での、死の予告である。
     街は粉になるまで粉砕され、積み上げられた歴史は消える。全てをえぐり、緑の存在すら許さない。  
     少女は星の落ちた瞬間を、まだその目で見たことはない。だから、その情景も想像でしかないが、それを想像しただけで、体はブルブルと震えてくる。
     何の予告もなく、全てが終わる……。それって、スゴク怖い。
    「また、消えるの?」
     小説家はその質問には答えない。
    「星が消えたな……」
    「お父さん、ミドリの話し聞いてた?」
    「ああ…」
     上の空な声。「聞いてはいるよ」
     だけど、答えない。少女は不満そうに表情を膨らませて見せたが、それ以上の事は聞かなかった。少女だって、理解してはいる。そのたった一言のクエスチョンが、どれだけ簡単には答えられない問題であるのかを―。
     少女は父にならって、夜空を見上げた。いつもの空、いつもの星、いつもの暗闇の時間、いつもの雲、いつもの月、いつもの父の顔。
     夜空にはもう、閃光のカケラも、確認できない。何もなかったかのように、静かな、冷たく、心地よい夜の空気。
     小説家の表情は何もなかったかのように、少女に向かって微笑んだ。
    「さ、家の中に入ろうか?」
     少女はなんだかホッとした。星が去ったと同時に、父の顔から憎悪によく似た表情も消えた。まるで何ごともなかったかのように……。
    「うん」
    「どれ、夜食にラーメンでも作るかな。俺は腹が減ったよ」
    「絶対、味噌ラーメン!」
    「はいはい」
     小説家は苦笑し、家の中に入る。少女も慌てて、後を追い家に入った。
     何事も―何事もなかったかのように。
     少女は、玄関のドアを入る前に、クルリと空を見上げた。いつもの何もかわらない夜、でもドコかでは、何かを消している星の雨。今日は何を消しにきたの?
     あの星は、もうドコにも見えない。
     少女は、夜空に背を向けて、家の中に入った。


    【続く】
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