【
前回分はこちら】
「アリン!!」
答えはない。完全に気絶してしまっていた。
「こんな時に!」
だが、容赦なく星は降っている。さっきより、なおいっそう激しく。
星の雨・・・否、星の滝が夜空を埋めつくしていた。滝は川を作り、海を作り、狂ったように躍動している。星は禍々しく光りを放ち、空から大地へと数え切れない線を引く。線は大地に存在するあらゆるものを消していく。その繰り返しで街はすでにかつての姿はなかった。かつて住んでいた人々が今、何人生きているかそれすら疑問である。
だが不思議と、ロイの思考には家族の事は少しもでなかった。
消息不明の家族よりも、今そばで生きているアリンを守り抜く事、それが重要だ。悲しむ事なんか後でもできる。俺は―アリンは、死にたくない!
「アリン、起きろ! 目を覚ませ」
ぐったりとしたアリンの体をゆする。アリンはかすかな息を唇からもらし、うっすらと瞳を開ける。
「ん・・ロイ?」
「大丈夫か?」
「痛い・・なんか、体中ズキズキするよ」
「走れるか?」
「うん・・」
とかすかにうなずいて
「ロイ?」
「何だよ。のんびりしている暇はないんだぞ。この街には安全な場所なんかないんだ」
「どうして私をおいて逃げなかったの?」
「馬鹿な事言ってんなよ! さっさと逃げるぞ」
と乱暴にアリンの手を掴んで走ろうとする。アリンはロイの背中に安心の笑みをもらした。こんな時なのに、なぜかロイに対して素直になれる自分がいるのにアリンは驚いた。普段ならこんな事は一言も言わなかった。ロイが怒る事も分かってた。それでも言ったのは、安心がほしかったからだ。そしてロイは安心以上の勇気をくれた。
(私はこの人が好き)
こんな時にこんな事を思うのは不謹慎だろうか? でも・・生きてこの街を出れたら、本当にロイと幸せになりたいと思う。私はこの人と一緒に生きたい・・そう心の底から思う。自分の家族や友人が死んでいるのかもしれないのに、アリンは走りながらそんな事を考えていた。勇気は強さをくれる。私はロイと一緒に生きる―という確固たる意
志をもった強さを・・。こんな極限状態だから、そんな想いがよぎるのかもしれない。三秒後には、ロイも私も死んでいるのかもしれないが、それでも生きたい。二人で生きたい。街から絶対、脱け出したい。二人である事が二人に希望をもたらしてくれた。はかない希望であり、弱すぎる強さではあるが・・・。
が、その想いも一瞬にして、かき消えた。
「!」
声にならない声を二人はあげる。ロイもアリンも石化したかのように、空の一点を凝視した。
星の雨の一線が二人の頭上をめがけて、落ちてくる。
強烈な光に目がくらむ。風が二人を凪ぎ、石つぶてや砂粒が竜巻のように、二人を包み込む。だが、痛覚は感じなかった。痛さよりも、星の雨への恐怖が二人を占有した。
(「死」ぬ・・・・・?)
目をつぶる。
死への恐怖。
轟音などという言葉では表現しきれない破壊の歓喜。光は目蓋の裏にまで刺し込み、風は竜巻を作り、瓦礫と化した街のかつての部品達を凶器に彩る。
そして星の雨の一粒はロイとアリンもろとも粉砕して・・・粉砕して・・・粉砕して?
ロイは目をそっと開いた。星が消えている―。
痛覚が再びロイの体に蘇った。全身がズキンズキンと痛い。見れば、ロイもアリンも手から足から体から頭から血を流していた。痛覚と薄れそうな意識に、ロイは現実をどう理解していいのか分からない。
「アリン・・」
「ロイ?」
二人は傷だらけの手を握り合い、空を見上げた。あれほど狂暴だった星達はドコに消えたのか? 今ではすっかり、静寂が街を支配していた。静かな夜にたしかな現実として、廃墟と化した街がたたずんでいる。
ココはドコ? 思わずそう呟きたくなる。
「俺達は生きているぞ、アリン」
「ロイ」
夜空には幾つかの星が消えそうな光りで輝いているのみだ。二人はただ立ちすくみ、そして力なく座り込んだ。
長かった夜はまもなく明ける。
【続く】
・・・・風邪で死んでました。
ようやく調子は取り戻しつつあります。
このブログ、まだカウントもアクセス解析もいれてないので、どなたがいらっしゃってるかよく存じませんが、皆様もご自愛ください。
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